『地獄楽』の個性的なキャラクターたちを藤本先生が独自の視点で分析!

読者の予想を裏切る急展開の連続が話題を呼び、「少年ジャンプ+」連載陣の中でも圧倒的人気を誇る『地獄楽』。そこに登場する個性豊かなキャラクターについて、『ファイアパンチ』連載中から賀来先生との親交が深い藤本先生が熱い想いを語ってくれた。

罪人と執行人、そして人間と化物による、
生死を懸けた忍法浪漫活劇

『地獄楽』賀来ゆうじ

不老不死の仙薬があると言われる島を舞台に、罪人と打ち首執行人、そして島に巣くう化物との生死を懸けた闘いが描かれる。作者の賀来ゆうじ先生は、藤本先生の初連載作『ファイアパンチ』をアシスタントとしてサポートした経験を持つ。

「週刊少年ジャンプ」本誌で
話題沸騰中の『チェンソーマン』を連載中

藤本タツキ

2016年〜2018年まで、初連載作品となる『ファイアパンチ』を「少年ジャンプ+」にて配信。世界を閉ざす雪の寒さに怯える人々と、狂気と炎を身にまとった主人公・アグニによる物語は、第1話からネット上で拡散され話題に。現在、「週刊少年ジャンプ」本誌で連載中の『チェンソーマン』も、欲望に忠実な主人公・デンジや魔人パワーなど、型破りなキャラで人気作となっている。

さらに藤本先生が、お気に入りのキャラを 描いたイラスト
&ドローイング動画も公開!!

――『地獄楽』のキャラクターについてお聞かせください。

藤本:キャラクターのデザインについては『ファイアパンチ』の仕事場で色々とお話させていただいていたんですが、そういった意見を取り入れて固めていったと仰っていました。どのキャラクターが強いとか、そういう細かい設定は色々変わっているんですけど、デザインはその時話し合ったままでしたね。あと、賀来先生とよく話していたのは、今の読者って物語の間に挟まれるキャラクターの背景とか、長い説明はあまり読まないんですよ。だからテンポ良く話を進めるためにも、キャラの背景などの説明は、「ただ、そこに置いてある」ってことだけが伝わればいい、って話をしていたんですけど、『地獄楽』はそういうところが良くできているなって思います。
担当:あの職場は漫画の話をする人がすごく多かったですよね。

――賀来先生のキャラクターの描き方として、印象的な部分は何でしょうか。

藤本:『地獄楽』で印象的なのは、キャラを描く際の陰影の付け方ですよね。口で説明するのは難しいんですが、キャラクターの感情を描こうとする時、顔に表情をつけすぎるとうるさくなっちゃうんです。だけど、陰影は付けてもうるさくならない。『地獄楽』はそのあたりがすごく気持ちのいい描き方をしていると思います。あと、これはキャラクターについてではないんですが、「ああ、賀来先生はそういう風に見せてくるのか」って思ったシーンがありました。天仙たちが集まっているシーンなんですが、そこがナイトプールみたいに描かれているんです。天仙たちは性交(房中術)が修行になるじゃないですか。だとすると、その本拠地は今の感覚で言うと「ナイトプールっぽいところ」になるよなぁって。もちろん『地獄楽』の世界にナイトプールがあるのは現実的ではないんだけど、そう描いた方がリアリティが出る。例えばその場所が薄暗い洞窟だったら多分性交はしづらいし、雰囲気出ないんですよね。でもナイトプールだったら「っぽい」なって。たぶん賀来先生は現実世界のナイトプールみたいなところが嫌いで、悪役である天仙たちが栄えるところとしてそれを描いたんじゃないかと(笑)。

――主人公の画眉丸についてはどんな印象をお持ちですか?

藤本:連載を読んでいると、主人公の画眉丸は賀来先生っぽいな、と感じる事があります。物語の序盤では非道なキャラクター性が描かれているんですけど、先に進むにつれて優しさが表れてきて、それがどんどん大きくなってくる。作中でも「ずいぶんと印象が違うな」って指摘されてますよね。賀来先生ご自身も、一見普通の方なんですけど、掘り下げてお話を聞いてみると異常なものが好きだったりするんですよ(笑)。そういう意外性が画眉丸っぽいなって感じました。
ただ僕は、主人公は作者に似るべきだと思っています。主人公って作品の中でも登場シーンが一番多いじゃないですか。だから作者の感情をそのまま主人公の感情にした方が描きやすいんです。自分が感じていることと違う感情を無理に持たせようとすると続かないので、作者と主人公は似せていくしかないのかなって思っています。

――『地獄楽』のキャラクターでお気に入りのキャラは誰ですか?

藤本:佐切が特に好きですね。彼女を見た時は、「賀来先生が僕の好きなキャラを狙って描いてる!」って思いました(笑)。佐切もそうですが、賀来先生の描く女性は「全員可愛い」っていうのが前提でデザインされてますね。男性は身体の大小やかっこいいヤツ、気持ち悪いヤツ、ごついヤツとかなりバリエーションがありますが、女性は全員可愛い。そこにも理由があって、実は『ファイアパンチ』で自分の好みじゃない女性も描いてみようとしていたら、賀来先生が「そんなことはしなくていい」って言ったんです。「女の子は全員可愛くていい!」って。で、結局好みじゃない女性を描いてしまったんですけど、登場後はどんどん自分好みになっていってしまいました(笑)。女性キャラクターには自分の好きな要素を盛り込むべきなんですよね。だから『チェンソーマン』では「全員可愛い」を心がけています(笑)。

――『地獄楽』に出てくる怪物たちにはどんな印象がありますか?

藤本:気持ち悪いデザインを造る時って、何か熱量みたいなものが必要なんです。僕は大学が美術系だったので分かるんですけど、「すごく綺麗な造形のもの」を時間をかけて造ろうとすると、どこか気持ち悪い感じが出るんですよ。造っているうちにその作品を客観視できなくなって、首が長くなったり、耳がでかくなったりして、美しさはあるんですがどこか気持ち悪い印象を受けるんです。『地獄楽』はそういう「美しい造り物」に共通する奇妙さが表現されたクリーチャーが多いですよね。例えば天仙が変身して花のような形になるんですが、その花弁の部分に顔があったり、さらにそれが裏返ったりしていて「あぁ気持ち悪い」って感じるんですよね。僕はそれがかっこいいなって思うですけど、一般の方が見たら気持ち悪いでしょうね。

あと、『地獄楽』の怪物たちはゲームの『SIREN』や『サイレントヒル』に出てきそうなクリーチャー系が多いんですが、賀来先生はゲームはやられない方なので、そこからヒントを得たのではないな、と感じていました。で、木子を見た時に、木の枝や幹で人間を表現する芸術作品があるのですが、そういった一風変わった作品から影響を受けたのではないかな、と思いました。

――今回、藤本先生には『地獄楽』のキャラクターを描いていただくのですが、どのキャラを描いてただけるんでしょうか。

藤本:キャラクターとして好きなのは断然画眉丸なんですが、自分で描きたいのは佐切ですね。あと、ああいう袴を着たキャラを描いたことがないんで、描いていて楽しそうです。

藤本タツキ先生熱筆!!『地獄楽』打ち首執行人

さらにイラスト完成までの工程を完全収録したドローイング動画も公開!!