――お互いが持つセンスや技術で、特に羨ましいと思う点があればお聞かせ下さい。

加藤 私はちゃんとした技術を習得しないまま連載を始めたので、山岸さんの持つテクニックが羨ましくなりますかね。画力とデッサン、モノクロのバランスの上手さとか。山岸さんの漫画はそういった技術が下地にあるから上手い漫画なんですよ。『ムーンランド』は絵の上手さに加えてストーリーも競技に関してもよく練られていて、キャラクターの心の動きや台詞に無駄もブレもない。基礎がちゃんとしていると、たくさんの表現が可能です。

これまで描かれてきた心情や成長が、競技を通じて集約される巧みな構成。

山岸 でも「技術が見えている内は駄目」という気もしていて、そればかり目につくということは、正しく技術を使えていないのかも知れませんね。私はちょっとした「ハズし」というか、センスの部分が欲しいと思っているんですよ。

加藤 センスというのは誰もが持っているものだよね。『ムーンランド』でも言っているじゃない。皆違って、各々の世界で各々の体操をするという。作品の根幹のテーマじゃない(笑)。四角四面に定まり過ぎて、余計なものを入れられないということ?

山岸 はい。ちょっとした1コマや台詞の遊びがないというか…。『ムーンランド』で描いているものは、全部ストーリーのために必要な直球ばかりという感じがしているんです。

加藤 「どこまでもちゃんとしている漫画だ」というのは、確かにそういう側面もありますね。でも描き慣れてきたのか最近は砕けた部分も出てきて、いいなと思いますよ。あとはギャグ顔がないから、ギャグシーンではもう少し顔を崩しても読みやすさに繋がりますね。

山岸 確かにそれは意識したことがなかったかも知れません。ついつい本筋を描くことに集中してしまうんです。必要なものを詰め込んでギリギリまで削って構成しているのですが、一方で余裕も必要だと思うんです。絶対に必要なものの上に、何かふわっとしたものがあってもいいな、と。

加藤 なるほどねぇ…。でもこれだけの作品を経験したし、基礎もあるのだから、これからは余裕が生まれてくると思いますよ。

山岸 私は加藤先生のカラーに憧れています。すごい綺麗ですよね!

華やかな色使いと細部の遊び心…と、加藤先生のカラーは常に見どころが満載。

加藤 カラーを塗るのは好きですけれど技術がなくて…自分ではただ塗り絵しているだけなんですよね。理想の絵を描けていないから、最近はもっと平面っぽい塗りにした方が自分の良さが出てくるのかも、と思ってたり。

山岸 色の選び方というか、色使いが好きなんです。見ていて惹かれて、楽しそうに塗っている感じがして。加藤先生は落書きもすごい描かれているから、その積み重ねがカラーにも表れているんでしょうね。「これだけ描けるようになったら楽しいだろうな」と思うけれど、今まで描いた枚数が加藤先生と私とでは比べものにならない(笑)。