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“やってる感”が共感を呼ぶ

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賀来:『ベルセルク』のアクションシーンが物凄く気持ち良いのは、実感みたいなものを持っているからなんでしょうか?

三浦:多分7~8割は空想なんですよ。残りの2~3割くらいに、本物っぽいところを自分は入れるようにしていますね。物事を経験するって、凄く推奨されることじゃないですか。特に日本だとそうですけど、漫画って必ずしもそうじゃないと思うんですよ。漫画って空想力というかイメージ力の方がメジャーを占めているんじゃないかな。だけどそればかりだと凡百の何かになっちゃうんで、そこのバランス感じゃないですかね。多分空想だけだと、物凄く空想力が突き抜けていないとメジャーなものにはなれないし、かといってリアルなものばかり追っていくと物凄くマニアックなものになってしまうので、「自分にちゃんと合ったところはどこだろう」という風に考えてやるのがいいのかなと思いますね。魔法のシーンのときも考えたのが、魔法を“やってる感”。

賀来:なるほどなるほど、リアル感というか。

三浦:当時ですね、神田の本屋をいっぱい一生懸命回って、「自分は魔法使いです」って人の本を探したんですよ。要はデータじゃなくて、その人たちに共通する、魔法に対する美意識みたいなものを拾い上げようと思ってですね。そんで儀式を行うときに一人称がどうなるのかっていうのが大事なんだなと知りまして。シールケのビジュアルのことも、ガッツの剣のあの感じも、目指すところは同じなんです。見ている人がそのキャラクターに没入できて、一人称的に“やってる感”を感じてくれればいいなあと思っています。

賀来:読者の方がその一人称に没入するっていう感じですね。見てる人としてではなく、“やってる喜び”を抱いてほしいといったような。

三浦:はい、読者の人がそのキャラクターになりきれるのが理想ですね。

賀来:凄いなあ。僕もなかなかできていないからそこは頑張んなきゃいけないところでもあるんですけど、そのディテールというか、まさに“やってる感”というか、そういう部分こそが本当は重要だと思っています。その他のものは背景としてはもちろんあったほうが深みが出るし何回も噛むためには重要だとは思うし、全くないのはそれはそれで薄っぺらくなっちゃうと思うんですけど、まずは何よりディテールというか実感みたいなものをどうにかして描きだせないかなあっていうのがあります。

三浦:そうですね、でも頑張ってるじゃないですか。あの「タオ」とか「気」の部分って、漫画で久しぶりに見ましたよ。『ベルセルク』もそのうちあそこに突っ込まないといけないんですけど。

賀来:三浦先生は、フィクションの感覚とリアルの感覚とのバランスを自覚的に考えていったという感じですか?

三浦:漫画のことと関係ないんですけど、自分は中学のお受験でいきなりレベルの高いところに放り込まれて、中学の3年の間に東京のレベルに追いつくために物凄く勉強しまくって、やっと中の上くらいに行けたんですよ。それで高校は受かったんですけど、そのときに自分がよくわかったんですよね。「自分ってこのくらいの能力の持ち主で、このくらい必死に勉強をやって、やっとここだ」というのが。何か必死にやったことが受験だったんですよ。だから「己を知れ」というか(笑)。自分にこれだけの能力と資質があるから自分のカードはこれだと、このカードを自然に生かすためにはどの手が一番いいかというのを、ちゃんと考えて戦略を練れってことですね。

賀来:それは凄くわかるといいますか、やっぱり自分にできることとできないことってあるし、でもそれに気付くのって難しいことだとも思うんです。頭で考えてるだけじゃ絶対にわからなくて、作品として発表してみて評価を受けてようやくですから…それは経験ってことなんですかね?

三浦:多分、自分の時代は漫画家としてデビューするまでに凄く時間がかかったんですよ。入り口が狭くて、その門を突破するのが大変だったんですけど、今は他人の目に触れるまでにそんなにかからないんじゃないですかね。プロかアマチュアかはわかんないですけど、早い段階で人の目にめちゃめちゃ触れるので、持ち込んでは追い返され、友達に見せては「お前、アレのパクリだろ」って言われて「恥ずかしい!」みたいなことに自分はなっていたので、そういったことがネットで繰り広げられているのかなって(笑)。

賀来:僕も全然デビューしてから今日までが凄く長くて、本当に試行錯誤をし続けて。とにかく作品を発表しないと絶対に自分の能力ってわからないですよね。僕は社会人を経験してからデビューして、それが「ジャンプ」といういわゆる少年向けの雑誌で、自分がすでに持っちゃっていた大人の感性みたいなのを、どうやって少年漫画ナイズしていくのかという戦いがずっとありました。

三浦:一回社会に出た、その大人の感覚っていうのが、いっぱいある少年漫画の中の武器になるんでしょうね。

賀来:あ、そうですかね?

三浦:子供たちって、リアルで大人っぽい何かに触れたがることがあると思うんですよ。真実っぽい何か。そういうところを狙っていけば…。あんまりビター過ぎてもよくないかもしれないけど…。でも『地獄楽』ってめちゃめちゃビターですけどね(笑)。

賀来:(笑)。僕の勝手な想像で、三浦先生ってクレバーな方なんじゃないかと思っていたんですけど、こうやって話してみるとやっぱりまさにですね。

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コラボイラスト

『ベルセルク』ガッツ ラフ(三浦先生:直筆)

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