賀来:自分が描いている作品の中でも、楽しい部分でもあり気を遣う部分でもあるんですけど、三浦先生のキャラクターデザインがとても気になっているんです。たとえば自分が好きな作品に永井豪先生の『デビルマン』がありまして、永井豪先生の描かれるデザインって、自分なりの言葉になるんですが“強度が高い”と感じるんですよね。誰が描こうと『デビルマン』の怖くてかっこいい永井先生の要素が出てくるんです。もし少女漫画家さんが描いたとしても、怖くてかっこいい、崇めそうになってしまう感じがデザインに埋め込まれていると思うんですよ。僕はそれを“強度が高い”デザインと呼んでいて、そこを目指しているんです。
三浦:お若いのに我々のほうに感性が近いですね(笑)。
賀来:僕にとって三浦先生の作品は、そこも凄く大好きなポイントなんです。新しいキャラクターもすべてかっこいいですし。三浦先生のデザインの原風景ってどこにあるんでしょうか?
三浦:まさにおっしゃられたところですよ。自分が物心ついて夢中になっていた時代のものがそういうものばかりだったんですよね。昔は多分、子供が落書きできるぐらいのデザインが一番重要視されていたと思うんです。さすがにそれを今そのままやっちゃうわけにはいかないんですけど、ディテールをブレないように増やすっていうことだと思うんですよね。
賀来:ご自身の中で影響を受けたなと思われるデザインはあるんでしょうか?
三浦:やっぱり、『デビルマン』の影響は受けてますよ。永井豪先生の作品やダイナミックプロ作品は、小学校の頃は完全にその影響下にありましたね。あとは、さっきの『ロボコップ』とかもそうですけど80~90年代のものが一番、バランス的に元のデザインと、それをブラッシュアップして大人も見られるぐらいのところにあると思います。ティム・バートン監督版の『バットマン』とかもそうですし、あの頃の作品が一番影響強いんじゃないですかね。
賀来:今なお作り上げるデザインとしては、やっぱりその時代のものが浮かび上がってくる感じですかね。
三浦:そうですね。あの頃はゲームも『ストリートファイターII』とか『ヴァンパイア』とか、CAPCOMさんのデザインもとても素晴らしいですからね。パッと見てわかるものになっていて。
賀来:そのキャラクターがどういうやつなのか、見た目でわかるんですよね。
三浦:複雑でもないですしね。永井豪ルートの完成体が多分あの時代なんだと思います。
賀来:僕もそういうブレないデザインが好きですね。色々な人に自分のキャラクターを描いてもらいたいけど、誰が描いてもキャラクターの軸がブレないというのが理想です。僕は『デビルマン』とか『ウルトラマン』が凄く好きだったので、ウルトラマンや怪獣をデザインした成田亨先生のデザインを理想として意識していますね。『ベルセルク』を読んでいるとそういう喜びもあって。
三浦:成田先生はひとつ頭が抜けている感じがありますよね。『ベルセルク』の怪物のデザインは、これもまた捻らないようにしているんですよ。たとえばゾッドは、宗教書とかに出てくる中世の挿絵をリアルにしたらどうなるかな、というような着想から生まれました。あまり捻らずそのまま世界観に溶け込むようにデザインしています。あとザコキャラの使徒とかは、寝起きに思い浮かんだものをパパっと絵にしたような、作為的なものはあまり入れないようにしています。
賀来:ゾッドのデザインって本当に凄いですよね。あんなにシンプルでわかりやすいのに、そういうものって下手するとよくある何かになっちゃうじゃないですか。でもそうならずに、差別化されたものになっているんですよね。なぜそうならないんだろう?って思います。
三浦:それは多分、取り扱い方にもよるんじゃないんですかね。動かし方と演出によって、そいつがよりそれらしくなる、というのがあるんだと思います。漫画とかドラマってそういうところがありますからね。最初からデザインも演出もあわせて、という形ですね。演出としては、あそこは群像劇からまた元に戻るところでもありますからね。
賀来:ゾッドは裸でいるのが良いんですよね。着込んでないっていう。
三浦:裸でいるのが良いっていうのは、小池一夫さんとか池上遼一さんの作品の中でよくありますね(笑)。「裸=凄い」みたいな。
賀来:あと、『地獄楽』で他と差がつく見たこともないものを描こうとする中で、引用するものの一つとしてバンド・デシネがあったりするんですが。
三浦:おお!読んでいらっしゃるんですか。
賀来:三浦先生の『ギガントマキア』を読んだときその空気感を感じたというか。『DUNE』や『メタ・バロンの一族』の、アレハンドロ・ホドロフスキーの作品のような雰囲気を感じまして。三浦先生はバンド・デシネも読んでいらっしゃるのかなと。
三浦:『メタ・バロンの一族』とか有名な作品は読んでいますね。『DUNE』は映画を見たりしましたね。学生の頃によく『HEAVY METAL』とかを洋書屋さんで買っていました。『メタ・バロンの一族』なんて僕が大学生ぐらいのときの本だったと思いますが、よくチェックしていますね。
賀来:いえいえとんでもないです。今は翻訳も出ていて手に入りやすくなっていて嬉しいです。
三浦:僕が『HEAVY METAL』を読んでいた頃は全部英語だったので、絵だけ見て楽しんでましたね(笑)。
賀来:フランク・フラゼッタの絵だけ見て、みたいな感じですね。
三浦:フラゼッタまでチェックされているんですね。最近漫画を読むのにも体力が… (笑)。文章のほうが読みやすいんですよね。でも最近まとめ買いしたといえば弐瓶勉先生の『シドニアの騎士』、あと赤松健先生の『UQ HOLDER!』を。『魔法先生ネギま!』が好きなんですよ(笑)。
賀来:へえー!そうなんですか!その感じが『ベルセルク』から感じる雰囲気ですよね。「なんでもあるなあ!」「ここの感性もあるんだ!」という。
三浦:『ネギま!』を読んで感心したのは、週刊であのレベルをずっと保っているのが本当にプロの仕事だなと。画面の白い漫画が多い中で一定レベルを保っていて、しかも毎回毎回若い子たちをモジモジさせる、ウケる芸風をずっと確立しているんですよね。いい仕事してるなあ、と思って感心しながら読んでしまうんですよね。もちろんモジモジしながら(笑)。
賀来:僕もなるべくインプットをするために新しいものや話題になったものを読むようにしているんですが、最近凄くカチッとはまった漫画ですと、今更ながら一ノ関圭先生の凄さに気付けまして。『鼻紙写楽』とか、昔からずっと凄いと言われていた作品ですが今一歩踏み出せていなくて、いざ読んでみたら、これは各所から絶賛されるわ、と。
三浦:へぇ~!読んでみよう。僕は昔読んだものを読み直すというのが多くなりました。『お~い!竜馬』とかね。小山ゆうさんが凄く好きで、『お~い!竜馬』とか『がんばれ元気』とか、あれだけドラマチックで綺麗なストーリーを作ってみたいですね。
賀来:僕も憧れます。大好きです。
三浦:あとはSFとかでよく読み返すのが、長谷川裕一先生の『マップス』という作品。
賀来:わかりますわかります!素晴らしいですよね。
三浦:大好きなんですよね。SFなのに温かみがある感じと、宇宙船のキャラクターたちがどれもキャラ立ちしているのが凄いですよね。
賀来:あの頃のSFの独特な空気感がいいですよね。際立っているというか。
三浦:もう一回アニメ化してくれないかな。『地球へ…』がアニメ化されたときびっくりしましたけどね。今頃やるんだ!って。あと最近はラノベもよく読みますね。
賀来:本当ですか!どういったものを?
三浦:最近一番感心したのは『天鏡のアルデラミン』という作品ですね。近代戦争のファンタジーものなんですが、「戦争とはなんぞや?」というところの意思とかしっかり書かれていて感心します。自分が読むことが多いのは軍記物っぽいやつや、異世界転生じゃないファンタジーでして。『グイン・サーガ』の栗本薫さんがお亡くなりになられてからファンタジーはなかなか読めなくなっちゃったんですけど、そこを補填しているのかもしれません。
賀来:『ベルセルク』を読んでいて、どんどん新しいものを取り込まれているなあというのを凄く感じていました。直近の展開でも魔女っ娘たちの学校が出てきたりとか。凄いなと。ちゃんとアンテナを張られているんですね。
三浦:アンテナ張ってるというより、もともと適当な人間なんです(笑)。大人になりきらずに残っている部分を消さないように、って感じですかね。
賀来:なるほど。自分の中にある子供っぽい部分であったり。
三浦:運良く消えてないだけかもしれないですけど。フィジカル部分が消えていけばそういうものも薄まっちゃうのかもしれないですが、今のところまだギリギリ大丈夫な感じですね(笑)。いやまさか、こんなに自分が見てたものの話をスルっとできる若い人が来るとは思いませんでした。うちのアシスタントのほとんどが40代なんですけど、通用しやしませんからね。「僕の言うことわかってくれない…」って言いながら仕事してます(笑)。
賀来:いえいえ、先生が凄く気さくな方で良かったです。お会いする前は、ガッツみたいな片目のない凄い方かと思ってたんです。変なこと言うと鉄の拳で殴られるくらいのことが起こるのかな?どうしよう、と(笑)。
『地獄楽』画眉丸 線画(賀来先生:デジタル)