ナンバー

“人間関係”がセリフを生み出す

対談写真
  • この対談をシェア!!

賀来:三浦先生の作品の中に登場するセリフって、そいつしか言わないであろうセリフっていう感じが凄くしますよね。

三浦:キャラクターに付き合っていくと、どんどん人格化していくんだと思いますよ。キャラクターを立たせたり言うべきことを言わせたりしたい場合は、そこに集まった人間同士の関係性がこれからどうなるかっていうところに重きを置くといいかもしれませんね。メジャーなドラマの大半がそうですが、見ている人たちが期待するのって、「人と人が出会ってどう変わるか」っていう部分なんですよね。過去と現在の人間関係と、それによってどんな未来に向かうかっていう3つのところを大事に考えると、言うこともどんどん人間っぽくなっていきます。あと僕の場合はファンタジーであればあるほど、そこの人間っぽい心に関する考え方はちゃんと人間っぽくしないと、どこにも地に足の着いた部分がなくなっちゃうなって思ってそうしてるんですけどね(笑)。だから僕は『地獄楽』を読んでいて、「ああこの人たちこの後どんな人間関係になるのかな」って気になったりしています。

賀来:ああ、ありがとうございます。主人公にとって、他のその他大勢の人間関係がどうかっていうのを考える漫画って結構あると思うんですけど、『ベルセルク』って、例えばファルネーゼの物語があって、それに付随する形でセルピコ主導の物語があってっていう、それぞれ独立個人としてあるじゃないですか。ああいうのって、僕が自分でキャラクターと付き合っていく中で思うんですが、付き合い過ぎるとしんどくなってくることってありませんか?

三浦:一番最初にキャラクターを作るときに、まずは何はともあれ主人公、『ベルセルク』でいうガッツなんですよ。ガッツをどう見せたいかによってキャラクターを配置しますね。ガッツという孤高の戦い方をする、人を跳ね除けるような性格の肝所を見せたいんだったら、ファルネーゼが凄く良いんですね。普通だったら水と油じゃないですか。ガッツをファルネーゼの方向から攻めると近寄りがたいんですよ。だけどイシドロの方向から攻めるとガッツが“良い兄貴”になれちゃうんです。そうやってガッツの多面性を表すために配置しているんです。『ベルセルク』も全部が上手くいっているわけじゃないですし、物語全般の役割としてっていうのもありますけど、主人公を立てたいんだったら、最初は主人公の多面性を表現するためにキャラクターを配置していくと、みんなちゃんと機能してくれるうえにやってるうちに掘り下げていってくれるんですよね、自然に。

賀来:なるほど…!

三浦:自分の中で“人間関係”というのは、集まったり離散したりするものなんです。離散したり、また出会ったりということだと思うんですよ。大河ドラマもそうじゃないですか。別れとかが起こりますけど、またそれも出会いに結びついたりするものだと思うんです。一人でいるっていうのは大人だったら普通にあることですからね。社会に出てから出会う人間と、学生時代に出会う人間って全然違いますよね。何者かになった後にできる人間関係と、何者かになろうとしてる中の絡まった人間関係って意味が違うし、でもどちらも大事なんですよね。そこを描ければな、と思っています。『ベルセルク』はガッツとグリフィスの戦いの話で、両方とも変化の話なんです。そういう意味では今のガッツとグリフィスが決め打ちじゃないんです。グリフィスがこうだったらガッツはこうだったりということを、今後もそこを中心に描いていきます。

賀来:書き手としては、その決断も勇気のあることだと感じます。

三浦:賀来さんは主人公やヒロインの人間関係をこの先変化させていく予定はあるんですか?

賀来:僕はできれば、三浦先生がおっしゃっていたように、人間と人間が出会うことによって変わらざるをえない部分を描いていけたらなと。その中で、強い人が弱くなっていく話というのも面白いかなと思ったりしています。

三浦:“人間らしさ”と“強さ”って、両立できなかったりしますからね。

賀来:そこの違いの話を人殺しというか、一線超えてしまった人の中でやると面白いだろうなというのはありますね。

三浦:『地獄楽』にはヤバい人とか頭おかしい人しかいませんもんね(笑)。逆に真っ当な人の方が目立っちゃうかもしれない。

賀来:その中で画眉丸が真っ当な人間になると、どういう形でかはわかりませんが目立つんだろうな、とか。

三浦:それでもちゃんと主人公として強くなきゃいけないですしね。

賀来:そうですね。主人公としての格を落とさない、とかも色々考えているところではあるんですが。僕あの、全然ただのファンの話になっちゃっていいですか、ごめんなさい。僕、「鷹の団」の中で特にコルカスが大っ好きで。

三浦:あっはっはっは(笑)。

賀来:主人公チームを作るってなったときに、主人公のことを最後まで好きにならないやつを入れるのって凄く重要なんだけど、意外とやらないことが多かったりして。

三浦:そうですねえ。「鷹の団」は僕の高校の頃の普通の人間関係をそのまま放り込んだんですよね。本当のこととか、ありそうなドラマみたいなものを上手いこと入れると、普通の人が読める、取っつきやすいものになるんですよね。全部が全部特殊な設定に合わせてキャラクターとかを作っていくと、入りづらいSFみたいになってしまうので。

賀来:絆というか仲間内で仲良くっていうのはよくあると思うんですけど。コルカスが一人いるだけでグッとリアル感が出ますね。

三浦:良い宝物を持ってたなと思いますよ。

賀来:その高校時代のお友達の関係性が反映されているのかなって。

三浦:反映してますねえ(笑)。新人漫画家さんたちは本当に、自分には宝物があるよってことを忘れないでほしいですよね。自分の頭の中で作ることが漫画だって思いがちなんですけど、あなたの持っている武器はそれだけじゃないですよって言いたいです。

next ナンバー
コラボイラスト

『ベルセルク』ガッツ 線画(三浦先生:デジタル)

コラボイラスト